#22「」
寄稿者:中島ゆう子(写真家)

手製本家の小関佐季が働いている製本工房には、アーティストからの作品ケースや本の制作依頼以外に、一般の方からの本、たとえばお気に入りの小説や聖書などの修理依頼もある。 工房の作業台には、修理を待つ本が至る所に山積みになって置かれていた。
ある本の山の一番下に、年季の入った不思議な本を見つけた。私はその本がとても気になり、思い切って佐季にその本について尋ねた。「これは家族アルバムでね、ずっとここに置いてあるの。中を見てみる?」。そう言うと、彼女は積まれていた本をどかし、丁寧にアルバムを開いて見せてくれた。そこには家族写真、女性や男性、子どものポートレート写真、軍服に身を包んだ若い兵隊が写っている写真など、数多くの写真が収められていた。どのくらい古いアルバムかは分からないが、「かなり古い」のは確かだ。写真には撮影されたスタジオの名前と住所が記載されており、中にはケーニヒスベルクと書かれた、つまりプロイセン時代に撮影されたものまであった。
このアルバムを見たとき、私は母の実家の箪笥にしまわれていた祖母の古い写真を思い出した。私は祖母の写真を見るのが大好きだった。引き出しに雑然と入った写真を一枚一枚手に取り、「これはどこ?」、「この写真はいつごろ撮ったもの?」と質問しては、祖母は写真にまつわる思い出話を語って聞かせてくれた。若い頃の美しい祖母や大叔父が写る写真に混じって、馬にまたがる知らないおじさんの写真や、着物を着た知らない女の子の写真も引き出しにはたくさん入っていた。この、「知らない女の子」と血がつながっていることを不思議に感じながら、祖母の写真を通して、家族のつながりや歴史を知れることが楽しかったのを覚えている。
佐季が結婚式の写真を手にしたとき、明治記念館で撮影された祖母と祖父の結婚式の写真が目の前で重なった。ベルリンの製本工房にいながら、私は東京の祖母の箪笥の前にいるような懐かしさを感じ、会ったことのない異国の家族のアルバムを通して、このとき祖母との久々の再会を果たしたのだった。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼関連記事
「今に満足しないで、とにかく毎日やって、どんどん上手くなりたい」手製本家・小関佐季さん / インタビュー前編
「手を使う仕事で、紙と関われること。製本は自分にとってパーフェクトだと思った」手製本家・小関佐季さん / インタビュー後編
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/profile/yuko-nakajima
