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寄稿者:中島ゆう子(写真家)

夏めいたある日の午後、シュプレー川の水面に反射する、揺らめく木々と自分が重なった。 この地に根を下ろしているが、私は外国人だ。
ツーリストでも、この地の国⺠でもない中間地点に身を置くと、自分が何者か分からなくなるときがある。
そんなとき、カメラを通してこの世界を見つめると、ドイツ、日本、ヨーロッパ、国を越えて、旅人のように私の胸は高鳴り、鼓動は強く脈を打つのだ。
このエッセイは、何者でもない自分が見つけた世界を、写真と文章で綴る。

今回、エッセイの執筆のお話をいただき、過去に撮影した写真を改めて見返した。プロジェクトのテーマと合わないために、残念ながら「セレクト落ち」された写真や、タイトルを与えられず作品になれなかった写真を見てみると、そこには、日常に潜むちょっとした物語や、ふとした面白い瞬間が捉えられていた。日の目を浴びることのなかった写真が、こうして発表の場を与えられたことは写真家として幸せなことだ。
“タイトルを持たない写真” にささやかな言葉を添えたこのフォトエッセイが、読んでくださった方の心に響いたならば、私は非常に嬉しく思う。

 


Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

https://yukonakajima.de



▼著者の寄稿文一覧
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