#9「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

個人的なことであるが、この写真を撮ったときの私と、このエッセイを書いている「私」は 違う。

日照時間が日は追うごとに⻑くなり始め、サマータイムに切り替わる数日前のことだった。強い⻄陽が遠くのビルに反射し、リビングルームの白い壁に幻想的な光と影が現れた。冷たい壁をそっと撫でると、小さな指の上に光が踊る。美しい光景だった。

人生の儚さを感じてシャッターを切ったこの写真は、「私」への手紙だった。写真を撮ったとき、どんな未来が待っているかはまるで分からなかった。このあと自分の身に降りかかっ たことを考えると、この写真を撮ったときはなんて幸せだっただろうと思うこともある。しかし、空っぽの心しか持ち合わせていなかった日々を、この写真が「私」に寄り添い、懐かしい日々になるよう導き、救ってくれた。

この写真が「私」だけでなく、他の誰かの助けとなり、心に響くことを祈って。


 



Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

https://yukonakajima.de



▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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▼著者の寄稿文一覧
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