#8「」
寄稿者:中島ゆう子(写真家)
夏深いある日、私はベルリンのとある建築物の中にいた。毎年9月、ベルリン州は「Tag des offenen Denkmals」というイベントを開催する。このイベントは、普段立ち入ることができない歴史ある建築物や裁判所、メッセ会場などが市民に開かれ、ベルリンにあるおよそ300以上の建築物を無料で見学することができるものだ。私が訪れたこの建築物はベルリンの北西に位置する巨大な集合住宅で、1階のロビーと住宅3部屋が公開された。建物の美しい外観、力強く個性的な形をした柱、色使いやデザインが魅力的な壁面 ― 建築物を見てワクワクした、初めての体験だった。
一通り見学を終え、ロビー内のベンチに腰を下ろし周りに目を向ける。午後の光が固いコンクリートの空間に鋭いラインを描いていた。この建築が画く光と影と、そして色の一部を写真で切り取った。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/artist-profile/yuko-nakajima