#6「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

ベルリンの街を歩いていると、いたるところで犬をよく見かける。

彼らは飼い主であるパートナーと一緒に軽快に街中を歩き、ギャラリーで共に芸術鑑賞を嗜み、カフェで季節を感じ、さらにパートナーと一緒に通勤をする。バスや電車、自転車の後部座席に乗り、風を感じながらドライブを楽しむ。街で見かける犬たちは、私の目には “犬生” が充実し、とても幸せそうに映っている。
冬と春が行き交う季節。木の葉が街を彩りながらも、春の香りを感じる冷たい風が吹き荒れたある日、バスで素敵な乗客に遭遇した。バス停で寒さに冷え切った身体も、可愛らしいお客さんの突然の歓迎に、顔がほころび、思わず笑みが溢れる。暴れたり吠えたりせず、まっすぐ背筋を伸ばして前方を見つめる姿は、まるで教養深い紳士のようだった。たまに互いに顔を見合わせ、話が終わると前方に目を戻す。何気ないこの仕草は、⻑い年月を共に過ごしたであろう 2人の絆を感じた。

私が降りる一駅前で彼らは下車し、短いアイコンタクトを取ったあと、朝日が輝くまっすぐな道路を進んでいった。

 

 


Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

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▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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▼著者の寄稿文一覧
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