#3「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

ベルリンの秋は短い。

木の葉が徐々に⻩金に輝き、季節が少しずつ変わり始める9月のある日、数日ぶりに春のような暖かい日があった。
この日、私はバス停にいた。目的地へ向かうバスは20分に一本しか来ない。私は停留所の椅子に腰を下ろし、目の前の並木道や行き交う車を眺めながら、バスが来るのを待っていた。この頃、ベルリンでの展示が終わり、達成感とちょっとした疲労感、展示が終わった寂しさを感じていた。このプロジェクトを今度は東京で発表したい、ベルリンの気になる書店の展示スペースにアプローチをしてみよう、次はどんなプロジェクトに取り組もうか、今後の活動のことをぼんやり考えていると、目の前に女性が立っていた。光で輝く彼女の毛髪が並木道の木々と重なり、どこかで観たことがある、まるで絵画のような光景が目の前に飛び込んできた。すぐにカメラを向け、こちらを振り向くか振り向かないかの絶妙な瞬間を狙ってシャッターを切った。こういった瞬間を写真に収められたときの楽しさや達成感、スナップ写真の面白さを久しぶりに思い出した日となった。

スナップ写真といえば、真っ先に思い出すのは写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンだ。 私が高校3年生のときに、大阪で大きなカルティエ=ブレッソン展が開催された。お恥ずかしいが当時カルティエ=ブレッソンを知らなかった私は、先輩に「日芸を受験するなら観ておきなさい」と助言を受け、父とふたりではるばる東京から大阪に赴いた。初めて観たカルティエ=ブレッソンの写真は、楽しくて、面白くて、チャーミングで、ユーモアがあって、展示されていた全ての作品に感を受けたのをえている。カルティエ=ブレッソンはすぐに私のーローになった。

分のスナップ写真にカルティエ=ブレッソンの存在を出すのは大変烏滸がましいが、久々に彼の写真が観たくなった、んな秋の始まりだった。


 


Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

https://yukonakajima.de



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