#2「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

前回のエッセイ(#1「」)に続き、今回もシュプレー川について綴りたい。
緑深き夏のシュプレー川の岸辺も、曇り空の下では木々や川面はしっとりしていて、静寂の時間が流れる。
この日、私は街路樹でそっと目を瞑り、風に吹かれる木の葉の音や、水面のさざめきに耳を傾けた。頭を空っぽにし、川の音、風、空気を感じると、心が軽くなり、次第に穏やかな気持ちになった。特別なことが起こったわけではないけれど、瞑想に似たこの時間は、大切なひとときとなった。
私は写真を撮る日で一番好きなのは曇りの日だ。⻄日で伸びるドラマチックな影、逆光から美しく差し込むフレア、「光と影」を写真上で表現することももちろん好きだが、曇り空が演出してくれる、一枚何かフィルターが少しかかっている感じにとても魅力を感じる。この日は私にとって絶好の写真日和であった。
目を開けると、遠くで何か熱心に語り合う若者の後ろ姿が目に入った。若者を囲む木々は、まるで静かに、彼らの語らいにそっと耳を傾けているようだった。もうすぐ秋になり、寒い冬が訪れる。木の葉の緑はそっと姿を変えていくが、それまでもう少し、こんな日が続くことを願う。

 


Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

https://yukonakajima.de



▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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