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寄稿者:中島ゆう子(写真家)
夏になると、日光浴を楽しむ人々をよく見かける。特にシュプレー川の河岸は、水着やタンクトップ姿の人々で賑わい、各々の時間をゆっくり楽しんでいる。
ベルリンの冬は⻑く、寒い。1日の日照時間は8時間ほどだが、体感でいうと実際5時間ほどで、太陽が燦燦と輝く日もほぼなく、曇り空のどんよりとした、薄暗い日が続く。憂鬱な冬を乗り越えるために、ビタミンDのサプリメントを摂取したり、太陽光を模した光を照射する光療法用照明を使用したり、あるいはクリスマスマーケットでホットワインを飲みながらおとぎ話のような雰囲気を楽しみ、冬が過ぎ去るのを待つ。冬の終わりが近づき、春から夏に移り変わる時期になると、街行く人々の表情も明るくなり、夏の訪れを心待ちにしているように見える。
東⻄を横断するシュプレー川は、観光名所で賑わう東エリアとは異なり、⻄エリアでは住宅街を通る。私の自宅から徒歩1分のところにもシュプレー川が通っており、買い物や駅へ向かう際に近くを歩く。川沿いでくつろぐ人々を見かけ、その姿を目にするとこちらもリラックスした気持ちになり、ふと目が合うと微笑み合う、こうしたささやかな日常が私の心を幸せにしてくれる。ベルリンには海がないため、湖で夏を楽しむ人が多いが、シュプレー川でのんびりとした時間を過ごすのも、何物にも代え難い贅沢のひとつである。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/profile/yuko-nakajima