#13「」
寄稿者:中島ゆう子(写真家)

ベルリンの大きな公園・Tiergartenには、美しい運河がある。運河沿いには遊歩道があり、春になるとランニングや散歩、ピクニックを楽しむ人たちで賑わう。太陽の光、心地よい風、運河に反射する木々、水飛沫の響きや人々の笑い声――小さな橋で足を止め、運河からの囁きに耳を傾ける。「ベルリンに美しく短い春がやってきましたよ」、私にそう教えてくれているようだった。
水飛沫を眺めていると、頭の中でふと、Henning Schmiedtさんのアルバム『Klavierraum』に収録されている『240g Mehl』が再生された。勢いよく流れ落ち、小刻みに弾む水滴はまるでHenningさんの音色に合わせて踊っているようだった。躍動感のある美しい水滴の舞と、若緑と白鳥が佇む静寂な世界の自然の「公演」を、今年の春も楽しみたい。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/profile/yuko-nakajima
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