#10「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)
友人 A について綴りたい。


彼女と出会ったのは渡独前の東京だ。A は私のパートナーの友人で、彼女が休暇で日本へ旅行に来た際に出会った。その頃はすでに私の渡独行きが決まっていたため、ベルリンに住んでいる彼女と出会えたのは、「運が良かった」― そのときはそのくらいにしか考えていなかった。 しかし、のちに私にとって良き友人、そして良き理解者になる A との出会いは幸運そのもので、ベルリンでの新生活に暖かさを添えてくれた。

彼女は私のプロジェクト『The Trinity -place, community and spirituality-』のモデルを何度も引き受けてくれて、プロジェクトの考え方や捉え方にも大きな影響を与えてくれた。生活のふとした瞬間に「元気にしているかな」と思い出し、用事もないけどテクストを送る。グルメ家の彼女とジョルジアレストランへ行ったり、祖国であるロシア料理を振る舞ってくれたり、美味しいご飯を囲いながら近況を語らい合った。目的もなく一緒に散歩し、よく笑い、たまに泣いた。深夜まで真剣にボードゲームをした日もあった。A と過ごした日々を思い出すと、どの瞬間も愛おしく、とても懐かしい気持ちになる。彼女の優しさに何度も救われ、 彼女がいなかったら孤独な日々を過ごしていたと思う。

最後に会ったのは春先だ。冬が大好きな A を散歩に誘おうと思う。

 



Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

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▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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