#20「」
寄稿者:中島ゆう子(写真家)

ある夏の日。東京から来た母と2階建ての小さな遊覧船に乗船した。
船内のバーでビールを買い、屋上へ向かう。眺めの良さそうな椅子を見つけると、細波に揺れる足元に気をつけながら、そっと腰を下ろした。母が渡独しなければ乗る機会がなかったこの遊覧船も、今では私のお気に入りのスポットになっている。
乾いた喉にビールを流し込むと、普段見慣れているベルリンとは違う“ベルリン”の街並みが広がっていた。水面に揺れるストリート、川沿いでサマータイムを楽しむ人たち――街を歩いている時とは異なる視点で見るベルリンは、私もまるで旅行に来たような気持ちにさせてくれた。
母と二人で出かけるのは、いったい何年ぶりだろう。
こうして二人で過ごす時間は、あと何回持てるだろう。
夕日の美しさを肴に、あと何杯のビールを飲めるだろう。
ふと、そんなことを心の中で問いかけていた。
心地の良い風が私たちの髪の毛をやさしく揺らす。時刻は18時30分。サンセット前の美しい夏空の元、船は静かに出航した。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/profile/yuko-nakajima
