南太平洋の洋上で、クックが見た金の星を探して

写真・文=中村風詩人(写真家)

船旅に求めていた浪漫、それを実際に感じた出来事がある。それは2012年、南太平洋一周クルーズに乗船していた時のことだった。南太平洋という限られた海域は、世界一周と比べればひとつの海域に限られている訳で、当然狭い範囲ということになる。それでも、このクルーズほど多くの自然現象と遭遇したクルーズは他に無かったと思う。出港して1週間も経たないうちに、にっぽん丸の周囲を取り囲むように約千頭のイルカに囲まれ、虹が逆さを向いて出現する環天頂アークを見たり、月が白い光の輪を作ったり、スコールの奥に太陽が透けて見えたり、海面が虹色に輝いたり… 例を挙げればきりがないくらいに、様々な自然現象が立て続けに起こったクルーズだった。海の色も想像していた美しさを凌駕していた。水の色がミルフィーユのように幾重にも奥行きあるグラデーションを描き、寄港地に入港する時にはリーフの隙間を縫うようにして桟橋に到着した。しかし、このクルーズの中で起こった最も印象的な自然現象は、虹でも鮮やかな海の色でもなかった。むしろ、それは白と黒の単調な世界で起きた現象だった。

2012年の6月5日、にっぽん丸がタヒチの沖合を航行していた日のこと、望遠レンズにソーラーフィルターと呼ばれる特殊な道具を装着し、太陽にピントを合わせた。見上げた太陽面には、あるはずのない黒い球体が映っていた。太陽にできたホクロのようにも見えるそれは、ゆっくりと西の方にむかって動いていた。「これが、クックが求めた金星か」。ため息交じりに心の中でそう呟いた。この金星を欲する想いは、1ヶ月以上前に遡る。乗船前に太陽を撮影するため、光量を少なくするフィルターを購入し、いつもの船旅には使わない超望遠レンズをカメラバッグに入れた。なぜ、タヒチの沖合で金星の太陽面通過という自然現象を撮影したかったのか、それは船旅が好きな人なら一度は興味を持ったことがあるであろうジェームズ・クックの存在だった。彼がキャプテンクックと呼ばれるようになったのは、1769年に行われた第1回探険航海で成功を納めたからだ。その航海の目的こそ、同じ6月に、このタヒチで、金星の太陽面通過の現象を確認することだったのだ。キャプテンクックはエンデバー号で、私達はにっぽん丸でタヒチを目指した。そして、無事に金星が太陽の上を通過する瞬間を記録した。約300年の時を経て重なった航海の目的、なんと意義のある写真が撮影できたことだろう。地球から4000万キロも離れた宇宙でのできごと、次に金星が太陽面を通過するのは121年後の予定だ。



写真集『waterline - にっぽん丸の軌跡』 掲載エッセイより]


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※船旅のエッセイも多数収録されています。

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Profile

中村風詩人 / 写真家

世界一周、南太平洋諸国一周、東南アジア一周、オセアニア一周、欧州一周、などを旅して2026年現在80カ国以上を撮影。企業や各出版社、省庁、観光局などの撮影を行う。各百貨店や客船上での公演、写真講座、全国フォトツアーや世界旅写真展の審査員なども務める。代表作に世界3周分の海の風景を収めた写真集『ONE OCEAN』出版。海の風景は広島県の切手にも採用。2018年4月に著書『小笠原のすべて』(JTB パブリッシング)を上梓。同出版記念公演は 300人を動員、 展示は銀座・名古屋・大阪キヤノン ギャラリーから宇都宮東武百貨店・高崎高島屋・水戸京成百貨店・仙台メディアテークなど全国を巡回し、のべ10万人が来場した。2018年に7年にわたり撮影を続けた椅子の写真集『本能のデザイン』(実業之日本社刊)、2019年に世界一周をまとめた『OCEAN MEMORIES』(AP 出版)、2025 年に『waterlien ‒ にっぽん丸の軌跡』(AP 出版)を上梓。