#16「」
寄稿者:中島ゆう子(写真家)
夏帽を手に取り、この日も蚤の市へ出かけた。
夏の蚤の市は多くの人々でにぎわい、強い日の光や芝生の緑は、商品に彩りを添え、いつもよりも輝いて見えた。たくさんのコップ、お皿、おもちゃなどが並ぶレジャーシートやテーブルを眺めていると、あっという間に時間が過ぎていく。
空腹を満たすこの日のランチは屋台のソーセージ。夏空の下で食べる焼きたてのソーセージは、数時間歩き回ってへとへとになった身体を瞬く間に元気にしてくれた。滅多に飲まないコカ・コーラを一口含むと、爽快感が身体に広がった。そのとき、ふと誰かに見られているような気配を感じた。ゆっくり背後に目を向けると、そこにはソーセージやコカ・コーラとはご縁のなさそうなご婦人が、シルクの手袋を外しながら私を見ていた。「これは、レディの前で失礼いたしました」と思いながら、残りのソーセージとケチャップのついたポテトを口に運び、レディに微笑みかけた。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/profile/yuko-nakajima