#11「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

寒い日は夏の眩しい日差しが恋しくなり、暑い日は肌に刺さる冷たい空気が恋しくなる。けれど、街中が白い世界へと変容するとそんなことを忘れてしまうほど、雪には不思議な力がある。雪が降ると、凍結した地面を歩くことを億劫に感じるし、「外へ行くくらいなら膝の上にむりやり愛猫を乗せて、温かいインスタントコーヒーでも飲んでいたい」と思うが、一歩自宅から外へ出ると、手すりや草木に積もった雪をそっと両手で掴んでしまう。雪が降ると大人は思わず童心に返る、だから子どもは雪が好きなのかもしれない。今日も雪が降り、窓ガラスは氷のように冷たい。屋外に目を向けると、子どもの心を持った人たちが楽しそうに雪遊びをしていた。その光景はもう一人の大人も童心に返らせ、カメラを手にさせた。

 



Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

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▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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▼著者の寄稿文一覧
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