ゴードン・マッタ=クラーク展覧会|映像作品と写真作品から表現される交差する世界と空間とは
寄稿者:中島ゆう子(写真家)
2025年1月中旬からベルリンのギャラリー、Galerie Thomas Schulte(ギャラリー ・トーマス シュルテ)でゴードン・マッタ=クラークの展覧会が始まった。ギャラリー・トーマス シュルテは観光地として有名なポツダム広場近くに位置する。ここは美術館やベルリンフィルハーモニー、ギャラリーが並ぶ、芸術を堪能できる魅力的なエリアだ。 本展覧会ではマッタ=クラークの映像作品と『Walls』シリーズにスポットライトを当てた展示内容となっていた。ゴードン・マッタ=クラークの展覧会がどのようなものだったか、その魅力をここで紹介したい。
活動期間はわずか10年。サイトスペシフィック・アートの先駆者、ゴードン・マッタ=クラーク
ゴードン・マッタ=クラークは、1970年代にサイトスペシフィック・アートの分野で活躍したアーティストだ。サイトスペシフィック・アートとは、特定の場所の特性を活かして制作された作品を指す。彼は美術館やギャラリーを飛び出し、都市に直接介入することで、社会的なメッセージを込めたプロジェクト型の作品を数多く手掛けた。彼の作品の多くはニューヨークで制作された一過性のインスタレーションやパフォーマンスであり、その活動期間はわずか10年、さらに35歳という若さでこの世を去ったため、残念ながらオリジナル作品を目にする機会は極めて少ない(名付け親はなんとマルセル・デュシャン!)。
代表作の一つ『Splitting(スプリッティング)』は、家屋を物理的に分断し、建築物の構造そのものを露わにするという解体プロジェクトだ。構造がどんどん顕になっていき、その様はまるで建築過程が逆再生しているようだ。ジャンルが違うがリチャード・ロングやアンディ・ゴールズワージーの作品も彷彿とさせ、このベルリンで彼の作品に触れる機会を得られたことに、個人的にも非常に感激した。
展覧会が開催されたギャラリー ・トーマス シュルテは、趣のあるはAltobau(アルトバウ)のドイツ式1階に位置する。ユニークな呼び鈴を鳴らしドアを開けてもらいギャラリーに入る。高い天井に響く床の軋む音と、映像作品の音声が空間を包み込む。筆者以外に観覧者が一人もいない。4つの展示空間に分かれた小部屋をゆっくり順番に見て回った。1つ目の展示空間には『conical intersect』シリーズとDavid Harttの作品『Naturphilosophie』が展示されていた。
都市が交差し合う、映像のコラージュ作品 ― 実験映画『City Slivers』
2つ目の展示空間には、実験映画『City Slivers』(1976)と『Walls』シリーズの作品が3点展示されていた。この実験映画は都市の「動くコラージュ」のようで、縦長に切り取られたマンハッタンの建築や断片的な風景が次々と映し出されていた。縦長の映像は両端が黒くケラれており、まるで写真のテストピースのようなだった。黒いケラれ部分はおそらくレンズの前に黒い紙で隠しているようで、そのアナログ感が個人的にたまらなく面白可笑しく、観覧者にまるでドアを少しだけ開け、そっと都市の様子を観察しているような感覚にさせる。露出オーバーや多重露光、俯瞰的に撮影された映像や縦横がバラバラな映像のシークエンスはどんどんオーバーラップしていく様子は、静けさの中で観る者を魅了する。この作品はYoutubeでも公開されているので、ぜひご覧いただきたい。



自分がどの世界にいるのか?実像と虚像が交差する空間 ー 映像作品『Automation House』
次の展示空間に進むと、映像作品『Automation House』(1972)と『Walls』シリーズの作品が2点展示されていた。スクリーンの裏はビニール製のビルボード(大きな広告)が設置されていた。展示空間から全貌を見ることは難しかったが、屋外から見えるビルボードはアメリカのハイウェイに広告が複数並んでいる光景を彷彿とさせ、さらに“ただの”ビニール製の広告が窓枠によってフレームできちんと装飾された絵画のようにも見えた。
映像作品『Automation House』は、一見すると点定カメラで室内やテラスの何気ない日常風景のシークエンスのようだった。しかし、映像が進むにつれ、観覧者は奇妙な違和感に気づく。映像の中心にはいつも鏡が映り込んでおり、現実の世界と鏡の中の世界が絶えず交錯しているのだ。2つの世界がコラージュされたこの作品は、映像に映り込む人間の身体が断片化されたり、“見えない境界”を行き来しているように見え、最終的には自分がどの世界にいるのか分からなくさせる。
撮影されたものや撮影技法は異なるが、さまざまな世界が重なり合う本作品は『City Slivers』との共鳴を感じ、鏡が効果的に使われている本展覧会は観覧者を『Automation House』の世界へ誘っていた。
こちらの作品もYoutubeでも公開されているので、興味があればぜひご覧いただきたい。





Gordon Matta-Clark (Ex)Urban Futures of the Recent Past 展覧会開催概要
会期:2025年1月18日(土)〜2025年3月1日(土)
時間:12時〜18時
休館日:日曜・月曜
会場:Galerie Thomas Schulte
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