Miss Read2024で美しい本と出会う

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

年に一度、ベルリンで開催される巨大アートブックフェア「Miss Read」。今回このアートブックフェアで写真集2冊を買い付けさせていただいた。ここでMiss Readがどんなものかご紹介したい。

Miss Readとは?

Miss Readとは、ベルリンで毎年開催されるアートブックフェア&フェスティバルである。2024年は10月11日から13日までHKW(Haus der Kulturen der Welt)で開かれ、およそ50カ国以上の国々から340を超える出版社や書店が参加した。アートブックのほか、クリティカルな内容の本やアーティスト自身が製本した本など、様々はジャンルの本が並ぶ。ジャンルを超えた本を取り扱うこと ― 世界的な書籍の多様性を受け入れ、出版業界を盛り上げること ― それが本フェアの使命である。

今年、Miss Readは「脱植民地化するアートブックフェア」をテーマに掲げ、主にアフロ・フェミニストとクィアの声に焦点をあててプレゼンテーションを試みた。残念ながら、ドイツにおけるアフロ=フェミニストの系譜はあまり知られていない部分である。そこで今回、音楽・文学・映画・ディスカッションを通して、過去70年間の黒人文化やクィアの活動家のさまざまな系譜を紹介した。受付ではMiss Readオリジナルグッズも発売している。

国際色が非常に豊か、まさに“書籍の多様性”を肌で感じるアートブックフェア

会場であるHKWはTiergarten内に位置し、交通手段はバスのみ。筆者も久々に、土曜日の観光ルートを巡る100番バスに乗り込み、HKWへ向かった。車内には、ドイツ国外からの観光客で混み合い、様々な言語が飛び交っていた。戦勝記念塔を曲がり、べルビュー宮殿を抜けると、目的地はすぐそこだ。あまりの混雑さに停車駅で降りることができるか不安になったが、幸い乗客の約30パーセントの人たち私と同じ目的地で下車した。人混みに紛れながらバスから降りると、今度はMiss Readを楽しんだお客さんが本を片手にバスに乗り込んでいく。様々な言語の表紙を目にし、Miss Readのインターナショナルさを会場に入る前から実感した。

会場に入ると、たくさんの人と膨大な本の量に目を見張った。見慣れない文字の表紙や聞き慣れない言語が会場内を飛び交い、全体が活気に満ちていた。この中から良い本を探すことに、ワクワクし、胸が高鳴った。

筆者が最後にMiss Readを訪れたのは2019年だ。当時と比べると圧倒的に出展ブースが増え、国際色豊かな出版社や書店が並んでいた。そしてお客さんの数も以前来た時よりもさらに多い印象を受けた。会場内に溢れるたくさんの本と人々 ― べルリンに住む人たちの芸術・政治・そして多様な文化への関心の高さが来場者の多さに比例していると感じた。

話は少し変わるが、ドイツは「紙主義」の文化が色濃く残り、契約書や重要な書類は全て紙に印刷され、“ドイツ流”でフォルダー収納される。これだけデジタル化が進んでいても重要書類は全て紙媒体なので、このフォルダーは事務所だけでなく一般家庭にも1冊以上ある(筆者が聞いたところによると、小学校でどのようにファイリングするかを授業を通して学ぶらしい)。確定申告書、住民票、滞在許可書、住居の契約書などの書類をそれぞれにまとめたフォルダーが我が家にも3冊はあり、何か必要な際はフォルダーを開いてパラパラとページをめくる。個人的に、紙主義のお国柄がアートブックフェアにも出ているように感じた。地上階の様子。この他に地下一階、中二階にもたくさんのお店が並ぶ。

どんな人が本を作ったのかが分かる、ブックフェアの良さ

広い会場にはたくさんのテーブルが並び、各テーブルには美しく、ユニークな本が数多く置かれていた。本の表紙、自分の直感、さらに本を売っている人を見て「良い本」を探す。売り手や作り手との対話から、本への愛情を感じ取れる本が「良い本」だと個人的に考えている。それらによって本の内容が変わることはないけれど、出版社やアーティストと直接話して買えることがブックフェアの醍醐味だ。

今回、買い付けさせていただいた本をここで簡単に紹介したい。 1冊目はベルリンのSHIFT BOOKS社から出版されたRabea Edelの『A Second Beating Heart』。ドイツ国内の多数のフォトブックアワードを受賞した作品を一冊にまとめたものだ。生まれたばかりの子どもと母親マーサの日常を追ったドキュメンタリーとオートフィクション(実際に体験したわけではないが起こりえたであろう虚構の世界に自己を投影すること)を丁寧に交えた美しい作品となっている。この出版社は芸術的関連性と社会的関連性を組み合わせたユニークな出版物を数多く制作し、デザイン、感触、素材を重視しながらも、可能であればビーガン生産を行い、環境に配慮した本作りを行っている。
2冊目はロンドンのThe everyday press社から出版されたSarah Dobai の『The Donkey Field』。モノクロ写真と文章によるストーリー仕かけに構成された本は、まるで映画を観ているようで、ページを捲るたびにワクワクする、楽しい一冊となっている。店主や店頭に立っていた方は温かみのある優しい人柄で、短い時間ではあったが、楽しい買い付けとなった。

秋も深まったベルリンで、芸術、読書を楽しむための一冊を探すにはぴったりのアートブックフェア・Miss Read。来年はどんな本と出会えるか、今からとても楽しみだ。

Miss Read 開催概要

会期:2024年10月11日(金)〜10月13日(日)
時間:10月11日(金)17時〜21時
   10月12日(土) / 10月13日(日)12時〜19時11時〜20時
会場:HKW
John-Foster-Dulles-Allee 10, 10557 Berlin, Deutschland
GoogleMap

https://missread.com/
会場となったHKWは普段は展覧会なども開催されている。


▼Miss Read2024で買い付けた本

A Second Beating Heart / Rabea Edel
The Donkey Field / Sarah Dobai


▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/profile/yuko-nakajima