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寄稿者:中島ゆう子(写真家)
この写真は渡独して7日目に撮影したものだ。クリスマス休暇を利用してベルリンに一時帰国していた友人にモデルをお願いし、プロジェクト『The Trinity -place, community and spirituality-』の制作をスタートさせた。このカット(というよりこのシチュエーションで撮影した全てのカット)は残念ながらプロジェクトから除外されたが、個人的にとても思い入れが強い写真だ。
夕方15時ごろ、別のシチュエーションでの撮影を終え友人と街を歩いていると、公園にたどり着いた。この公園は元々大きな駅があった場所で、当時使われていた線路がそのまま残されていた。ふたりで線路に腰を下ろし、買ったパンを食べながらたわいのない話をした。
16時少し前、うっすら曇っているが久しぶりに美しい夕暮れ時となった。友人の翔る後ろ姿とマジェンタ色に染まった空を写真に収めた。
ベルリンに来てからまだ1週間、どんな瞬間も新鮮に感じた。肌にしみわたるような寒さ、ひんやりとしたハッセルブラッド、友達との会話の中での白息。写真に写る友人の姿を見るたびに、逃げ去ってしまったそんな些細な瞬間を思い出す。今はあのころのように何かを “新鮮” と感じる機会が減ってきたように思える。それは、ベルリンの生活に徐々に慣れてきた、と捉えれば良しとするが、何かに対して “新鮮” と感じること、美しいと感じること、時には悲しいと感じることを忘れずにいたい。
彼女は東京で暮らしている。また、クリスマスシーズンにベルリンで会うことが、今から待ち遠しい。
Profile
中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト
日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。
曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。
▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
https://atsea.day/blogs/journal/yukonakajima-essay-0
▼著者の寄稿文一覧
https://atsea.day/blogs/artist-profile/yuko-nakajima