#23「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

冬が長いベルリンでは、夏になると人々は都会を離れ、湖へやってくる。かつてはインドア派だった私も、この街に暮らすようになってからは、夏の到来とともに湖を恋うようになった。おにぎりやフルーツをお弁当箱につめ、水筒にアイスティーを注ぎ、大きな鞄と大きなレジャーシートを持って、電車に揺られて南西へと向かう。

お昼前に湖近くの駅に到着すると、まずはお気に入りのハンバーガー屋さんで早めのランチを食べる。ここでブルーチーズの入ったハンバーガーとフライドポテトを、冷えたコーラと一緒に食べるのが私の定番だ。作ったおにぎりはいうと、木陰でつまむ、特別なおやつとして大切にとっておく。ふかふかのバンズと肉汁たっぷりのハンバーガー、ブルーチーズの香りに舌鼓し、コーラをぐんと飲んで食べ終わると、さっそく湖の方へ向かう。

木々の緑が広がる美しい湖。

一年ぶりに湖に足を踏み入れると、その冷たさに思わず顔がしわくちゃになる。この冷たい湖で泳ぐ勇気がない私は、大きなレジャーシートを広げて、木々の葉を揺らす風と、水面が立てる細波の音に耳を傾けながら、横になった身体でゆっくりと呼吸を始めた。

「ハロー!ちょっと泳いでくるので、荷物を見ていてくれないかしら?」

不意に影が落ち、一人のご婦人が穏やかな声をかけてきた。

「もちろん!荷物は見ているから、ゆっくり泳いできてください」と微笑み返すと、彼女は短く感謝を口にし、その場でそそくさと水着姿になった。

迷いのない足取りで水際へと歩を進めた彼女は、六歩ほど踏み込んだかと思うと、そこから吸い込まれるようにしてぐんぐんと泳ぎ去っていった。 やがて遠くの方で、彼女は仰向けに浮かび、夏の太陽を全身に浴びていた。水面と一体化したその静かな佇まいを眺めているうちに、私も少し勇気をもらった。来年は水着を持ってここへ来よう、と。




Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

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▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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