アマルフィ。そこは世界一美しいと言われた港

写真・文=中村風詩人(写真家)
朝起きるとイタリア西海岸の沖合にいた。入港を数十分後に控え、止まってしまいそうなほどゆっくりと船は動いていた。遠くに三日月型のアーチを描いた半島が目に入る。その中心部には一際高い塔が建っていた。その塔を囲むように煉瓦造りの屋根や白壁、遠くの山にはレモン畑のような林が見えていた。錨泊地に到着すると、扇形に広がった街並みは、まるで映画館の丸みを帯びたスクリーンに映された情景のように見えた。

これがアマルフィ… ため息と同時に港の名前を何度も口にした。なんて美しい港だろうか、17年船旅をする中で、これほど感動した港は、アマルフィの他に見当たらない。

寄港地に上陸し、こういう美しい港町に背を向けて、青の洞窟やポンペイ遺跡にいったり、ナポリ観光にでかけたりするのは、少し勿体ない気がする。アマルフィという注目していなかった小さな港町に、こうして出会い迷い込むことが出来たのだ。叶うならマルゲリータとリモンチェッロをテラス席で食べてから歩きたい。石畳の小道を当てもなく巡り、大階段を登って教会に行く。そして今まで船で渡ってきた海を眺めるのだ。きっとその眺めは、何気なく見ていた海よりもずっと広い。そんなイタリア人がしてそうな、大それたことのない休日こそが理想的だ。こんなにも美しい港町、アマルフィに来たのだから。


写真集『waterline - にっぽん丸の軌跡』 掲載エッセイより)

 
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Profile

中村風詩人 / 写真家

世界一周の旅を始め、今まで80か国以上に渡航し、撮影を行なう。森をテーマに個展や東京都美術館でのグループ展にも出展。著書『ONE OCEAN』では、世界3周分の海の写真をまとめた。年間200の写真展に足を運び、現在600冊の写真集、50枚以上のオリジナルプリントを収集するコレクターでもある。審査員を務める世界旅写真展ではこれまで鬼海弘雄氏、石川梵氏など著名な写真家と共にフォトアート作品の普及に寄与してきた。