#24「」

寄稿者:中島ゆう子(写真家)

湖からの帰り道。急な坂道を上ると、人々がそれぞれの時間を楽しんでいる光景が広がっていた。湖から届く心地の良い風とともに、友人や家族、大切な人と過ごすひととき。夕方18時をまわっても、一向に暗くなる気配はない。

眼下に小さくなった湖と、そこに漂う白鳥を眺めていると、サッカーのパス練習をしている父親と息子の姿が目に入った。無類のサッカー好きだった私の父もまた、同じくサッカー好きの友人やその子どもたちと、よくボールを蹴っていた。球技が苦手だった私は、母やその友人とキャンピングチェアに座り、大人の会話にそっと耳を傾けながら、父や幼馴染みのプレイを眺めていた。大人相手に本気で挑む幼馴染みの姿。そして、子ども相手に全く手加減しない父親たちの姿。ドイツでサッカーの中継を見るたび、いまでもそんな光景が脳裏に蘇る。

このエッセイに悲しいことを書くつもりはない。しかし、目の前でボールを蹴る親子の姿から、天国へ行ってしまったその幼馴染みを思い出さないわけにはいかなかった。最後に会ったのはいつだろう。もう思い出せない。

願わくば、向こう側にもこのベルリンのようなどこまでも明るい夕暮れがあってほしい。そして、静かな湖のほとりで、彼が今も彼の父親とあの日のようにボールを蹴り合っている姿を、ただ静かに想像してみる。

いつもはタイトルのないエッセイだが、このエッセイはKKに捧げたい。少しだけ冷たさを帯びた湖からの風が、彼らのもとへも届いているように。




Profile

中島ゆう子 / 写真家・ビジュアルアーティスト

日本大学芸術学部写真学科卒業後、坂田栄一郎氏に師事する。 過去と現在、個人とコミュニティを結びつけ、人間の相互作用、記憶、および精神性に焦点を当てた作品を制作している。 大学時代から一貫して中盤フィルムカメラで撮影を続けている。

曾祖母の箪笥とその記憶をテーマにした作品『A chest』(2015)、イヴ・クラインの言葉から着想を得た「青」をテーマにした作品『The Blue of SAYONARA』(2014-2016)を制作。渡独後、信仰と宗教的表現を現代の視点から写真で再解釈した『The Trinity -place, community and spirituality-』(2017-2021)を制作する。同作品はベルリン(ドイツ)、リガ(ラトビア)、アムステルダム(オランダ)、東京、北海道(日本)で展示されている。 2023年夏に新しいプロジェクト『Thick Forest of Dachgeschoss / ダッハゲショッスの森』をベルリンで発表。

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▼エッセイ「タイトルを持たない写真」について
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