1 - 音の浮力〜フィンランドの森と湖が持つ不思議な力
寄稿者:中村風詩人(写真家)
フィンランドが森と湖の国だと実感したのは2回目に渡航した時だった。初めてフィンランドを訪れた時は隣国のスウェーデンからタリンクシリアラインというクルーズで入国した。さらに出国はバルティックプリンセスというクルーズでエストニアに渡ったので、海ばかりに触れていたルートだった。そのせいもあってか、北欧とバルト三国といえば海に囲まれた海洋国家のようなイメー ジが先行していた。バルト海を巡ってから帰国をした後、フィンランドの首都ヘルシンキで聞いた言葉が度々思い出された。具体的なプランが無かった当時、ヘルシンキ港のポートセンターで観光案内をしていた女性がいたので、「フィンランドで何を見るべきですか?」と曖昧な質問をした。すると女性は「Forests and lakes(森と湖)」と端的に答えてくれた。その時は滞在するホテルを市内で予約していたため深い森を目指すことが出来なかったのだが、フィンランドの持つ独特な透明感を森の中で感じたら、それは素晴らしいことだろうと考え始めていた。そして北欧滞在を終えてからは、もっぱら「森と湖」が次の渡航のキーワードになっていた。フィンランド行きの航空券を予約したのはそれから二年後の秋だった。次こそは森と湖を目指して内陸を目指すことにした。とりあえず日程が確保できたので直行便でヘルシンキに飛び、現地で情報を集めることにした。以前に港で見かけたのと同じように、空港にも観光案内をしている女性がいたので聞いてみることにした。
「フィンランドは森と湖が素晴らしいと聞きました。どこが良いでしょうか」と。さらに今回は続けて「somewhere photogenic(どこか絵になるところ)」と付け加えた。女性は深く悩むこともなく「Kulhanvuori forests, it’s my hometown.」と答えてくれた。どうやら女性の故郷近くの森がお勧めらしい。聞くと森の近くに(と言ってもそれほど近くはなかったが)一軒だけ宿があるものの、交通機関がないためユヴァスキュラという主要駅を降りてから車で3時間近く走る必要があると言う。
もう少し行きやすく有名な森のほうが良いかと考える僕をよそに、女性は携帯電話をいじり始めた。通路の脇にあったパンフレットコーナーを見ていると、女性が寄ってきて一枚の写真を見せてくれた。「It’s the forest, my hometown」。女性は先ほどの回答に念を押すように同じ事を言う。その一枚の写真をみた瞬間に僕は旅の目的地を決めた。近くに一軒しかない宿を取り、いささか離れた最寄り駅からのレンタカーを予約した。そしてその翌日、ほとんど見ず知らずの人のホームタウンに到着した。
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2:音の浮力〜フィンランドの森と湖が持つ不思議な力 – In the forests and lakes, felt like floating.