歴史ある文化財で優雅な時間を。芸術家たちに愛された『カフェ・アメリカン』/ オランダ・アムステルダム

オランダの首都アムステルダムは、ヨーロッパでも有数のトラムの街だ。その起点ともなるアムステルダム中央駅からトラムに乗れば、ガイドブックに載っている市内の観光名所は殆ど網羅できる、と言っても過言ではないだろう。

この日は友人との約束があり、トラムで Leidseplein(ライチェ広場)に向かった。ライチェ広場は、カフェやレストラン、劇場、映画館などが集まっているエリアで、中央駅からは11分ほどで到着する。トラムを降りると、すぐに街の賑やかな雰囲気を感じることができた。

待ち合わせに指定されたのは、停留所から徒歩1分もかからない場所にある『Café Americain』(カフェ・アメリカン)。オランダ人の友人が「お気に入りのカフェがあるから行こう」と提案してくれたのだ。曲線が美しいアール・ヌーヴォー様式の外観。特段建築に詳しいわけではないが、その佇まいを一目見て、私の心は既に高揚感に包まれていた。

カフェ・アメリカンは、『Clayton Hotel Amsterdam American』(クレイトンホテル・アムステルダム・アメリカン)内にある。このホテルは、1902年に建築家のウィレム・クロムハウトとヘルマン・G・ヤンセンによって設計された老舗ホテルで、アムステルダムでも有名なアール・ヌーヴォー様式の建物のひとつだ。何度も改装が繰り返されているが、ステンドグラスの窓やロビーの赤い階段など歴史的な装飾要素はそのまま残されていて、今では国の文化財にも指定されている。

さっそくカフェに足を踏み入れてみると、そこには期待を裏切らない、息を呑むような美しさが広がっていた。優雅な雰囲気を演出するアール・デコ様式のインテリア。大きくとられた窓からそそぎ込む光が、天井の高い店内全体をやわらかく包みこむ。その見事な空間に圧倒された私は、少しの間入口で立ち尽くしてしまった。

様子を見ていたスタッフの方が優しい笑顔で声をかけてくれた。案内され窓際の席に着く。「あとで店内の写真を撮っても大丈夫ですか?」と尋ねると、「もちろん!」と快く承諾してくれた。そればかりか、資料片手にホテルとカフェの歴史を説明してくれる親切ぶりだ。

壁面には1930年に描かれたシェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢』などのオリジナル油絵や、カフェの歴史を物語るような写真がセンス良く配置されている。店内奥に進むと、1929年に作られた "オランダで最も美しい読書台" と称されるテーブルが置かれていた。長い歴史からしか生み出されることのない気品。このカフェがかつて芸術家たちの集う場として有名であったことも頷ける。

お礼を伝えて席に戻ると、別のスタッフが隣の丸テーブルを拭いていた。鼻歌を口ずさみながら微笑みを浮かべるその男性は、カフェをステージに変えて今にも踊りだしそうなほどご機嫌な様子に見える。

そういえば、日本のカフェで鼻歌を歌いながら仕事をする店員の姿を見たことがあっただろうか。ふとそんなことを思い友人に聞いてみた。その日一緒に過ごしていた友人は度々日本を訪れている大の日本好き。私は彼がどう感じているのか興味があった。「たしかに日本では見たことがない。真面目な人が多いからね。そこが日本人の良さでもあると思うけれど、疲れないか心配になるときもあるよ」。考える間を持たずにその言葉を口にしていたのが印象的だった。

先程のスタッフに目をやると、カフェについて説明してくれたスタッフと何やら楽しそうに談笑している。朝食を待つそのひととき、私は自分の肩の力がゆっくり抜けていくのと同時に、心が静かに満たされていくのを感じた。

左|EGGS ROYAL エッグスロイヤル 14€、右|UITSMIJTER ウイットマイター 11.5€

15分ほど経ったところで注文したメニューが運ばれてきた。普段はお米ばかりを主食にしていることもあり、オランデーズソースが艷やかに輝く姿は非日常で魅力的である。

私はお店の方に勧めてもらったエッグベネディクトを。メニューに「薄切り」と書かれていたサーモンは肉厚で食べ応えがあり、ポーチドエッグやソースとのバランスも抜群だ。そのボリューム感に最初は食べ切れるか心配していたが、すぐにそれは杞憂に終わるとわかった。普段は朝食を食べないと話していた友人も隣でぺろりと平らげていた。

穏やかな春の陽気だったこの日は、ランチタイムが近付くにつれて外のテラス席が賑わいを見せていた。今回は朝食目当てで訪れたが、メニューを見るとその他にも、ランチ・アフタヌーンティー・ディナーと、それぞれの時間帯で目移りしてしまうほど魅力的な選択肢が並んでいる。

窓の向こうに広がるライチェ広場の景色を楽しみながら、歴史ある文化財で過ごす優雅な時間。次回訪れるときは、お気に入りの本を携えてあの読書台に座りたい。そんなことを思いながらカフェを後にした。


写真・文=帆志麻彩

◇ カフェ・アメリカン|Café Americain
住所:Leidseplein 28, 1017 PT Amsterdam The Nederlands
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時間:7時〜23時 
定休日:無し
https://cafeamericain.nl/