サハラ砂漠の遊牧民の家に泊まった話

寄稿者:堀内彩香(写真家)

サハラの遊牧民の家に泊まるというツアーに行った。 モロッコ中部の都市、ワルザザートというサハラの入り口の街からバギーに乗って砂漠へ入る。街の音が遠くなる。 だんだんと陽が傾いてくる。サハラ砂漠には細かい粒子の黄色い砂の砂漠と、ごつごつとした岩でできた礫砂漠がある。こちらは後者の、果てしなく地平線の続く岩の砂漠。夕陽の沈む少し前に、遊牧民の家に着く。

「家」と聞いていたけれど、目の前にあるものは私の感覚でいうと塀に近い。砂と草を混ぜて固めたレンガを積み重ねて、壁を作っている。だがそこには屋根はなく、頭上にはただ空が広がっている。
すぐ隣には動物の毛で編んだ布を被せた、背の低いテントがあった。私たちは今夜ここに泊めてくれるらしい。テントは一つだけ。もしかしてみんな普段ここで寝てる?借りちゃっていいの?

炊事場で炊いたタジンをご馳走になってから、家の老人がミントティーを入れてくれる。この辺りの人たちはイスラムに改宗した人が多く、あまりアルコールを飲む習慣がない。その代わりに蝋燭の灯りの下で、ミントの葉と砂糖のたっぷり入った、とにかく甘いミントティーをいただく。彼らはベルベル語を話すので、私たちは共通の言語をもたない。夜はガイドが帰ってしまう。静かな時間が流れる。ここに来てから時計を見るのをやめた。1分2分なんていう細かい時間の概念がすごく無意味な気がして。風の凪いだ砂漠の無音。でも本当の無音の中に入って耳を澄ますと、身体の中や耳の奥からなんとも言えない音が聴こえる。自分が生きている限り、本当の無音なんて存在しないのかも知れない。

夜が来るとそこには一面の星。

時々ラクダの寝言が聞こえる。家って建物のことじゃないのかもしれないな、とぼんやり思う。季節とともに移動する彼らにとっては、もしかしたら家というものの輪郭が曖昧なのかも。 結局わたしたちは外に布団を引っ張り出して、星空の下で眠る事にした。



Profile

堀内彩香 / 写真家

1989年生まれ。新潟県出身。
大学で写真とデザインを学んだ後、スタジオに入社。
カメラマン羽田誠氏のアシスタントを経て、2016年独立。
好きなものは旅行、博物館、石、街の散歩と裁縫。

https://www.horiuchiayaka.com/